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2009年04月17日 幻のある場所

幻野 幻の野は現出したか 〜'71日本幻野祭 三里塚で祭れとてもインパクトのあるジャケット、外がコレで中が悪いワケないでしょう。「幻野 幻の野は現出したか 〜'71日本幻野祭 三里塚で祭れ」と題されたこのアルバム、概要はおおよそ以下の如しです。
1971年当時、千葉県成田市三里塚では成田空港の建設を巡って地元民による反対運動が展開されていました。その反対運動の一環として8月14日の夜にあるお祭りが執り行われました。ソレこそが他ならぬココに収録されている「日本幻野祭」です。と、コレだけ書けば、どうしてそのようなモノがCD化されているか、皆目分からないでしょう。摩訶不思議とは斯様なコトを言うのでしょうか、ナゼかそのお祭りには一風変わった音楽を得意としているヒトたちが続々と集められたのです。彼らの名を列挙していきますと、高柳昌行ニューディレクション、布谷文夫がいたグループDEW、阿部薫と高木元輝トリオ、竹田和夫のブルース・クリエイション、頭脳警察、そして灰野敬二のロストアラーフ……
まるで奇跡のようで悪夢のようでもある連中が、正に「幻野」の中に颯爽と登場し、壮絶なライブを展開します。まず、冒頭の高柳昌行ニューディレクションのぶっ飛びさ加減が(中でも高柳のギターが凄まじい)いきなり半端ではありません。阿部薫との共演「解体的交感」や「集団投射」で発生したのと同質の爆発を生みます。で、観客の方も何かよく分かりませんが、コレでヒートアップしてしまったのでしょう、会場は罵詈雑言の嵐へと向かうのです。このディスクの中には演奏と同時に客の言い争う音声が「論争」と題されて沢山詰め込まれていて、その辺、Hanatarashのアノ88年のライブアルバムを思い起こさせる部分があります。
その後、“お祭り”は布谷文夫、竹田和夫の怪演で好調に進んで行きます。が、そのすぐ後にこれまたどういうワケでしょう、「盆踊りをやるゼ」という話になり、地元のオバちゃん達もここぞとばかりに登場、陽気な盆踊りの場へと空気が移り変わるのです。コレではもうなんのこっちゃ分かりません。一方では相変わらず客の暴動が続いているのでして… と、皆の気が変になり出した頃に追い打ちをかけるかのように頭脳警察の登場です。「世界革命戦争宣言」「銃をとれ」 世界はとっくに変わっているんですが。そして最後の最後、トドメの一撃、灰野敬二のロストアラーフが参上。いや、惨状。ピアノを交えた即興演奏でもう降参。言葉が出てきません。


──コレほどエグいライブ音源があるでしょうか。正直、コイツにはもうかける(書ける)言葉もありません。高柳昌行や竹田和夫と頭脳警察、灰野敬二らの間に日常的で陽気な盆踊り!? なんなんだコレは。オレはどこを彷徨っている? 今、眼前にあるモノは何だ? 現実なのか幻なのか? …きっとコレは幻に違いない。幻野は確かにソコに存在していたのだ。最高最狂にして最強最悪のライブ音源、こんな時間と場所があったなんて!(追記:ジム・オルークがこのアルバムの推薦文を書いています。ソレだけでもうこの音源の正体が推察されるようではありませんか。)

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