2008年09月09日 「法の支配」 阪本昌成著
フリードリヒ・アウグスト・フォン・ハイエク。
二〇世紀を代表する政治学者にしてノーベル経済学者。二一世紀においても、このヒトの唱えた理論は圧倒的な輝きで以て、各地に「ハイエキアン」を生み出し続けるといったのが現状。
さて、ソレで、彼の代表作と致しまして『隷属への道』があげられれば、彼の政治哲学理論の結実を見れますのが『自由の条件』でありまして、而して彼の集大成ともなるべきものが『法と立法と自由』でしたらば、其所に一貫して流れている原理、概念こそが「法の支配」に他ならぬ。ハイエクが「法の支配」を徹底させよ！ コラ！ソコっ、勝手に法律を作んな！と声高に言い続けたコトは、知っていれば知っている事実。然るに未だに「法の支配」というものが、殊に我が国にあっては、マイナーな概念として扱われてはおりませんか？
それを徹底的に説いてみせたのが本書『法の支配−オーストリア学派の自由論と国家論』であって、著者は阪本昌成氏。ハイエクの「法の支配」についての概説書であると同時に、ハイエクそのものの政治思想、法思想を明らかにしておる。ハイエクを知るのにも最適な一冊でございますけれども、ソレよりも「法の支配」って何ぞや？という疑問詰問反問毘沙門を論じた名著だと思うんです。（amazonにあっては、何故にかこの本にレビューが付いていないのです。しょこたんのＣＤには三〇以上のレビューがあるのにぃ！！！）
書名にも見受けられるが如く、ハイエクはオーストリア学派を代表する哲人ですから、著者の阪本氏はハイエクの思想展開を、オーストリア学派及びアダム・スミス、デイヴィッド・ヒューム、アダム・ファーガスンといった人々を抱えるスコットランド啓蒙思想との関連の中で説く。それはすなわち「批判的合理主義」の思考──理知・科学へ過剰な信頼を寄せることなく、常に謙虚さを持ちつつ、世界と接する人々の在り方──を意味しておるんでした。
ちょっくら本文から引っ張って来ましょうか。
合理主義はある事象をポジティブに証明（verify）することが科学であるとするのに対して、批判的合理主義者は経験的に「誤りを排除」すること、つまり、反証（refute）可能性に賭ける。この思考は、人間の知力によって真理が獲得できはしないものの、誤りを徐々に排除でき、この反証を一歩一歩繰り返していくことによって少しでも真理に接近できる、と控えめに期待するのである。（三三頁）
さて、肝心の「法の支配」とは何ぞや。
これの説明には中世イギリスまで遡らねばなりませんで、「自由憲章」であるとか「マグナ・カルタ」であるとか、更には大法官エドワード・コークと「コモン・ロー」とか、色々ゴチャゴチャしてるんで、ここに至り、それを近代的に再構築してみせたハイエク大先生のお言葉を持ち出して来るのが宜しいように思われたのだから仕方無い。
法の支配とは立法府の権力をも含めてあらゆる政府の権力の限界を設定しているということである。それは法がどうあるべきかに関する一つの教義であり、また個々の法律のもつべき一般的属性に関しての教義である。……（中略）……最高の立法者は法律によって自分自身の権力を決して制限することができない。というのは、かれは自分のつくったいかなる法律をもいつでも廃棄できるからである。したがって、法の支配とは法律それ自体による支配ではなく、法がどうあるべきかに関する規則、すなわち超―法的原則あるいは政治理念である。【『自由の条件�供ー�由と法』 春秋社 一〇三〜一〇四頁】
…疲労困憊。
正「超―法的原則」⇔「立法行為」→「法律」
誤「超―法的原則」ー×ー「立法行為」→「法律」
ハイエク師の上記の一節を（超）強引に一行で要約すると、上の如くなり果てる。つまり、法律を制定するにあたって「超―法的原則」（これが「法の支配」にいう「法」）を裏切るな、と。ラディカルに解釈するとそうなんです。異なる角度からであれば、「法実証主義」のケルゼンは怖いヒトで、「法の支配」のハイエクには温情があったとしても悪くはない。と申しますのも、ケルゼンさんはホッブズばりに「法律は命令なり」と言いまして、コレに対し普段は温厚なハイエクさんが烈火の如く怒るか、不快感を示しましたのです。立法に当たり、「法律」は「法」に背反しちゃあ困るぜってのが「法の支配」であり、世のルールを抽象的・一般的に留め置かんとする意図が働く。──待てぇぇええええええ！！！ 忘れたのかぁ！！ あれほど「法律」を具体的／特定的な対象に絞って放っちゃいかぁーーんと言っただろうがぁあああぁあ！！！ ソレは必ずや誰かをわざと犠牲にするコトになり、誰かを敢えて優遇せんとする行為に他ならぬではないかぁああああああ！！！ なんという「法の前の＜不＞平等」！ わしゃ もう信じられんわー…と言うコトです。
ぇえと、ちゃんとお話するならば…
あとは本書に接してくれた方が良さそうです。もしくはハイエク教授の著作に触れるか。おまけでもう一箇所、此の書から持ってくると、
「法の支配」にいう「法を法たらしめる準則」の最重要フィルターは、法律を一般的・普遍性の法形式のもとに公然と置く点にある。換言すれば、《法律は、将来の未知の事例に対して、等しく適用可能であることが公衆に事前に知られうる状態になければならない》、《法律は、人を匿名の存在として、公然と扱わなければならない》ということである。これをネガティブに、《法律は、受範者の地位、身分、所属、徳性等を識別してはならず、適用においても、秘密裏に不平等に処遇してはならない》と言い換えてもよい。（二五三頁）
余談。あの〜、この機会だから傲慢にも言わせて頂きますけど、春秋社さん、何時頃になれば「ハイエク全集 第�挟�」が出版され始めるのでしょうか？ 今春より刊行開始と聞いて、気分ハツラツ何とかＣ状態であったのに…もう秋になりました。 春秋社さんには勝手に期待しておるんです。『隷属への道』も、春秋社さんから出ているものが名訳で感動したんです。──それはハイエクの教え子である西山氏の仕事であったから、だろうか。う〜む。
