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2008年01月20日 パーフェクトに近い堕落

昨日、今日と各地でセンター試験が催されてあったから、私にもかつての記憶が去来す。明日は多くの学校で自己採点をするのでありましょう。私の通っておった学校は翌日の午前中に自己採点が決行された次第で、自己採点なぞはすぐに終わりますから、結局その日は半日を遊んで過ごしたのでした。


さて、そういうワケでセンター試験が行われ、試験会場は大学である故に、私は昨日、今日と「試験補助員」というバイトをし、ずっと試験の模様を見ておった。偶然斯様な役割を引き受けたのであったが、お小遣い稼ぎ感覚で引き受けたのであったが、コレが実に愉快なバイトであった。私に与えられた仕事は、試験会場となる教室が存するフロアの一角に待機し、受験生の案内役を務めるってなモノなのでしたが、思い切って暴露すると、ロクな仕事が無いのでありました。
まず、私たち「補助員」は指定された場所に待機する。ソコにはご丁寧にストーブと椅子が置かれてある。そうして基本的にその場に座っているだけ、なのです。仕事があるとすれば、試験中に便意・尿意を催した受験者に付き添ってトイレの前まで赴く(トイレに入る前にポケットの中を点検するようなコトは絶対的にない! ただ付き添うだけ)とか、受験票を忘れた受験者への対応とか、会場内の案内とか…なのですが、トイレに行く者などは滅多におらず、ましてや受験票を忘れたと申し出る者も存在しなかった故に、ほとんど座っておるだけのバイトであった。初日の朝は、受験者が会場内に不案内であった故に、数名の者を誘導し、やたらとトイレの場所を教えましたが、土曜の午後からはずっと暇な時間でございました(何度「暇だ、退屈だ」と言ったことやら)。ところで、初日の午前中に二十名くらいにトイレの場所を教えたのだが、最近の高校生はトイレも独力で探せぬのか。私は常に斯く申し上げるのみであった。「(正面を指差して)あの階段の手前、左側にあります」と。この言葉の裏には「すぐそこにあるだろ!」という声が潜んでいたのは内緒である。まぁ、時給は安いがコレくらいのコトは丁寧にやらないと、お金を頂く側としても引け目を感ずる。


この「試験補助員」なるモノは、大学院生に割り当てられたバイトで、私は同じ学部の台湾人留学生のKクンと共に仕事をするように決定されてあったのであるが、同学部の者はKクンのみで、あとは他学部の者でしたが、思えば他学部の院生と接するのは初めてでありまして、いやはや何と言うのか、私が申し上げると不自然かもしれぬが、クセのありそうな者の多いコト! 特に理系の院生はクセにクセが折り重なってあるようなモノが少なくないのです。


普段はあまり話さぬKクンとも随分話した。二年分くらいは話したかもしれん。話すにしても、試験中であるから囁くように、声にならぬ声で話すのであるが、それでもよく喋った。今になって思い出すに、アレは「試験補助員」ではあらずして「試験中雑談員」である。
あらかじめ担当フロアと相方(基本的に二人一組で待機する)と二日間のスケジュールは決定されてあって、それに基づくにほぼ一時間交代で指定されたフロアに赴き、それ以外の時は控え室で待機するのであるが、控え室も試験会場の「補助員待機場所」も何ら変わらん。無理して違いを言うならば、控え室は何人にも気兼ねせずに喋れて、飲食も可能なのでした。従ってKクンが「コレはただ一時間ごとに座る場所を変えているだけですね」と笑いながら言ったのは、あまりに正論です。それくらいに無意味な役割であった。たとえばこういうコトもある。私は三階に待機して、エスカレーターのすぐ隣に座しており、ソコから下の様子を窺うに、姿は見えぬが、どうやら女性のペアがおったようで、本日の昼過ぎに寝息と思われるモノが下から聞こえてきたのだから呆れる。昼飯を食ってその後すぐに寝られるのはバイトではなくして、ソレをヒトは「堕落」というのですよ。


上述の控え室も奇妙な場所であり、「補助員」は全体でも三十人にも満たぬのに、二百席もある大教室が割り当てられ、ソコは全く自由な空間でして、読書をしても可、新聞を読んでも音楽を聴いてもマンガを読んでも可となりたる場所で、おまけにコーヒー、紅茶、お菓子類まで用意され、防寒用に大量のカイロまで頂けるのだから、まさしく至れり尽くせりでありませんか。それに加えて弁当まで支給されるのでしたが、その弁当もタイやマグロの刺身が入っているような無駄に手の込んだ“それなりの”モノを出して頂けるのだから恐れ入った。初めて学校からの恩恵を受けた気が致しております。
斯くして私は実感した。コレで時給が三倍になれば、天下りをして遊んでいるオッサン連中と同じ待遇になる、と。


難点は朝の七時半から夜も七時前後まで、およそ十二時間も滞在せねばならなかった長時間勤務のコトであり、またスーツでおらねばならなかったコトである。実に一日の半分をスーツで過ごしたのは初めてでありました。而して朝は六時五十分くらいに家を出ねばならぬのだが、私は常々「オレは寒さに強い」と思っておったせいで、コートの類も所持しておらぬのであるが、現にソレがなくても平気であったが、他人からすれば休日の早朝に薄っぺらいスーツ姿の輩がチャリに乗っているのは、甚だバカにしたくなる光景かもしらん。チャリとスーツ…これはウェディングドレスを着用致して原付に乗るのと同じくらい不釣り合いな光景でありましょう。


睡眠時間は短くなるが、斯様な仕事であれば、私は二週間に一度程度の休みであっても、つまり月に26〜28日勤務であっても、喜んでお受けする。コレで月給20万前後頂けるという待遇であれば、私は歓喜する。それはパーフェクトに近い堕落である。

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