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2007年11月08日 「正倉院展」及び東大寺周辺雑記4

“正倉院自体”を無事に見学し終えて、いざ奈良国立博物館へと向かわん。畦道のように土が露出しておるルートを、多少の懐かしさを覚えつつ歩む。私の実家周辺には依然と致しまして、このように舗装されておらぬ道が残存しているのであったが、ソレとこの時歩んでいた道が妙な具合で一致するのを覚えたのでした。都会の中に住んでおっては到底生じ得ぬ<懐郷>ではなかろうかしらん。
それにしても、其の荒々しい道の隅々にも自動車が幾台も停車せられておって、コレは現代では当然の事実なのでありましょうが、しかしながら‘東大寺の中’にて斯様な光景を目撃するコトには些かの心細さを覚えたのだった。だが、コレがそもそもいけないというコトを私は徐々に感じ始めたのでした。と言いますのも、私は其れに対して余りにも<歴史的価値>を見出さんと必死であったからなのです。すなわち、私は平成十九年の今日において東大寺を、其れが建築されたのと同時の時代感覚を抱いて鑑賞したいと祈願しておったコトに今更ながら気付いたのであります。勿論、斯様なコトは絶対的に不可能な仕業であって、どう足掻いても其れは平成十九年度の人々の視点でしか目撃出来ぬではないか。私が抱いておったような奈良時代の人々の意識下にイリュージョンして鑑賞しようなどとする意図は、所詮は愚昧な空中楼閣でしかあらぬ。此のコトに気付きたる時点で、私の中の視野は明確に転換したのであります。すなわち、東大寺に存すはずと思惟しておった<歴史的価値>への得体の知れぬ一体感所持の願望を打破し、其処にある<現代と過去の調和>にこそ何モノかを見出す必要に迫られたのであり、ココにしか面白みは発見できぬ、と痛感したのである。
斯くして、“正倉院自体”を後にし、大仏殿をも背中に見ながら、鏡池周辺に達す。よくよく見てみれば、その辺りも実に近代的外観で溢れておったのでした。つまり郵便ポスト・プラスチック製の品を並べたる屋台・ガラス張りの土産屋などの存在がソレである。これらはいずれも行きの道中にては気付かぬ存在であったが、何のコトはない、予め用意されておったモノなのだ。当初は私の視界に入り来たらなかっただけでして、コレらを確認するに及び、一層私の確信は強くなり申した。曰く、東大寺ーいや、奈良公園自体が最早<歴史的価値>の現存というよりは、<過去の或る価値と現代の価値の断片的調和>になっておる、というコト、この結論である。東大寺に赴くにあたって、あくまでも保持しておかねばならぬ基本的思慮はコレ以外にはありませぬように思われるのですが、果たして其処に“偉大な歴史そのもの”を見ようとして訪れたのならば、私のように妙な心的ショックを味わうコトにもなりかねません、と考えるのですが、イッタイゼンタイ如何がなるか…


其れであっても、帰りに今一度南大門をジックリと見る。う〜む、此処だけは別格でないかしらん。此の場はやはり“現代”と少しばかり隔絶されておるよ。
そう思っていると、近くにおった団体ツアーのガイドを勤めておる爺さんが此のようなコトをのたまっていたのでした。
「この金剛力士像は、運慶、快慶が十数人の部下を率いておよそ七〜八週間で製作されたものであり…(中略)…当然、このように巨大な像が一本の木で出来ているワケではなく、複数の木を合わせる『寄木造』という手法で作られており…(中略)…この辺りには修学旅行生も多くいますが、この中(東大寺)のガイドはバスガイドには出来ません。ちゃんと県から資格を得たモノでなくては案内ができないようになっております。ですから、私のように資格を持っているモノは毎日此処で案内をしています。お昼は毎日抜きです。今日も多分抜きです。…(中略)…ガイドの仕方にも複数あって、団体客用、小学生用、中学生用、高校生用があって、高校生用は更に二つに分かれます。商業・工業高校などのユルい学校用と進学校用です。今日(のお客)はレベルが高いので進学校用ので行きます。」
最後の部分は間違いなくネタであるが、年寄り相手には結構ウケておった。喋り慣れた爺さん、アレぞガイドのプロであろう。


さて、修学旅行生や幼稚園児の団体などを数多目にしながら、愈々奈良国立博物館へと向かわん。時刻は正午を十五分ほど過ぎた頃でございます。
東大寺への入り口になる交差点を横断し、ものの二分も歩めば、すぐそこに見えますのが「正倉院展」を開催しておる奈良国立博物館に他ならぬ。周辺にはやたらに多くの正倉院展を宣伝する幟や看板が設立されておりまして、その宣伝の必死ぶりには少しばかり哀れになる。
横断歩道の前にて悠長に座り込む鹿の隣で信号待ち。其処を横断した後、すぐに左前方に見えて来たのは、さすがに立派な建物の国立博物館。敷地面積もなかなかのモノです。歩道から外れて緩やかな角度で曲がる広々として段差の低い階段を下ると、・・・むむっ、妙な人だかりが出来ておる。テーマパークよろしく「入場まで一時間四十五分待ち」などと記されておったのですが、コレが他ならぬ正倉院展の入り口であるコトに気付き愕然となりまして、えへへへぇ〜、予想外過ぎるだろ! この展示会ってそんなに大人気なのか〜、約二時間も待てるか、諦めて帰ろうかなーなどと弱気になっておると、案内員のようなオッサンがマイクで「個人の方はアチラからお入り下さい」と言う。指し示された方を見ると、其処も人気遊園地のジェットコースターの下側の如く三列くらいの行列が完成致しておるではないか。うへぇ〜、正倉院展ってこんなに大人気なのかー、しかも平日だろうぅー。恨む。恨んでも恨み切れん恨みが発生し申し上げます。が、此処まで来った以上、帰るワケにはいかん。今ココで帰るというコト、ソレは三ツ星レストランに悠然と入り込み、フルコースを注文しておきながら、メインディッシュを前に腹痛を起こして席を立つようなモノでしかあらず、しからば無理をしてでも入るしかないではありませんか! 大人一枚千円というやや高価なチケットを購入し(なぜかチケット売り場は混雑していなかった。今度は丁寧な対応で一安心)、意を決して行列に並ぶ。


本当はコレにて終わりますはずだったのですが、今回の分は長過ぎるので二つに分けます。続きはコチラ(「『正倉院展』及び東大寺周辺雑記5」)にて。

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