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2007年06月16日 スイートチープ

その男は「Modern Speaks」という名のタブロイド紙を脇に抱え、朝焼け眩しい荒野を歩き続けている。
声をかけてくる浮浪者や老人の数は知れない。男はただ、約束の場所を目指して歩き続けるのであった。


一台のトラックが背後から男に近付いて来た。
ブラウンの口髭を生やした中年の運転手が、窓を開けて男に言う。
「荒野の朝は冷め切っているじゃないか。ハハーン、兄さん旅人だな。了解した。歩み続けるが良い。道が果てるまでな。」
運転手は二度パッパッとクラクションを鳴らしながら、遥か先の道へと消えた。
男は「朝は来るが、俺はまだ・・・」と呟いた。


丘が目前に迫って来たとき、木立の間から一人の浮浪者らしき初老の男が現れた。
その男は右手をヒドく色落ちしたジーンズのポケットに突っ込み、左手には鎌を携えていた。
「兄さん、そこにトカゲがいるぜ。ヘッヘ、毒を持っているトカゲだ。噛まれると死ぬぜ。ホラ、この鎌をやる。これでぶっち切れば良いさ」
男は浮浪者らしき男から鎌を受け取った。初老の男はそうしてニヤリと笑った後、男が今来た道へ向かってトボトボと歩みを進めた。
やがて男はその鎌を道端に投げ捨てた。


朝日が男の額に眩しく覆い被さってくるようになった。男は「スイートチープ」と呟いた。その時、ふとある夢を思い出した。
可愛らしい小さな赤いワンピースを身に纏った少女が男に抱きつく。身長5フィートにも満たないその少女は、男の左ポケットに湖とカモメが描かれた切手をそっと忍ばせて、姿を消した。それが男が唯一見た夢であった。
男は左ポケットに手を入れた。そこには古びた切手があった。男はそれをまた道端に投げ捨てた。


やがて前方に小さなバーが見えたとき、男は偏頭痛に襲われた。
バーからは野太い声が聞こえて来る。男はどこかで経験した痛みとどこかで聞いた声に対して、多少の親近感を覚えたが、それ以上は何も思わなかった。一瞬、子供の頃の初恋の記憶が蘇ったが、男はそれすらも道端に投げ捨てた。
男は再び「スイートチープ」と呟き、約束の場所へと向かい始めた。


太陽は雲に隠れ、男を照らすものは僅かばかりの希望のみであった。男は何も考えずに、自分の目的以外を道端に投げ捨てて、歩み続けていきたいと願った。

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