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2008年11月21日 大愉快

『大誘拐』刑事ドラマやミステリーモノにおいて最も好きなテーマは「身代金誘拐事件」です。ソレはとてもスリリングです。犯人からの接触の瞬間、捜査本部での捜査方針の決定、どうやって身代金を渡すか、挙げ句にはマスコミを巻き込んでの大騒動・・・ 各種事件のなかで、ココまで緊迫した光景を表現できる題材は他にないかもしれません。
しかし、それにも関わらず、私は常に一片の不満を抱えていました。ソレは必ずといって良いほど最後には警察が勝利! 犯人はあっけなく御用! というお決まりの展開がどうも気に食わないからでした。──警察だって完敗するコトはあるだろう、身代金を全額取られて、犯人側の高笑いで終幕。コレも描き方によれば十分なハッピーエンドとして仕立て上げられるはずなのに… そのようなコトを思い続けていました。けれども、コレは刑事ドラマに関していえば、不可能だといわねばならないでしょう。なぜなら、単純明快、ソコでは警察側の視点でストーリーが進むから。誘拐犯にとってのハッピーエンドを表現したいのならば、(当たり前のコトを言うようですが)犯人側を中心にして物語を創作していかねばなりません。


「クソー、たまには犯人勝っちゃえよ!」と不満を垂れると、「じゃあ、『大誘拐』でも読めばイイじゃん」との返答がお決まりのように返ってきたりもしました。フム、ナルホド、その『大誘拐』ってのは犯人が勝っちゃうんだな! と、文学/ミステリー音痴の私ですが、ココは意を決して是非とも読もうではないかと決心、…して流れた月日は果たして如何ばかりでありましょうか。来る日も来る日も自分が誘拐されたり誘拐したりするモノではないからとの誤魔化し、ついつい御座なりにしてきた無数の日々。
でも、転機は不意に訪れます。先日時間があったのと『大誘拐』を購入する機会に恵まれたコトとで、何とはなしに読み始めたのがキッカケです。──コリャとんでもないお話だ! 普段は本を読み進めるのが誠に遅い私ですけれど、この物語に関してはおよそ450ページを一日で読み上げてしまった。
突拍子もない展開に実に平易な語り口調、そして誘拐犯が勝つというより当の被害者が勝つとでもいうべき斬新なストーリー …果たしてこの事件の真の被害者は!? 結局本当の犯人はどちら? 不快感が一切残らないエンディング。愉快だ。こんな身代金誘拐事件は世界のどこにもあり得ないでしょう。あり得ないからこその唯一無二の独創性が漂っています。コレは誘拐事件の仏様かもしれません。読後、皆が笑顔になってしまうほどの親和性があります。『大誘拐』その名に偽りなし。そして内容も大誘拐ならぬ大愉快。
大きい事件は必ずしも悲劇ではない。描き方によってはこれほど爽快にも仕立て上げられるんだ。フィクション・ノンフィクションを問わず、こんな事件が現出すれば、世界は大愉快になっちゃうよ。仏様の笑顔を拝みましょう。

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