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2006年11月22日 バランス感覚

保阪正康著『昭和陸軍の研究』(上・下)保阪正康氏の『昭和陸軍の研究』(上・下)
今のところ上巻だけ読んだ。これから下巻に行く予定。


保阪さんの本を読むたびに思う事だけど、この人の緻密な取材には感服せざるを得ない。
今までどれだけの時間を聞き込みに費やして来られたのだろうか。
いやはや恐れ入る。


一方で、この人の歴史観や戦争認識への評価は分かれるところだろう。
物事をやや安易に断定・断罪したりする傾向にあるのは気にかかるし、たまに間違いを書くこともあったり・・・
とはいえ、過去と向き合い、そこから反省点を探り出し、現在さらには将来への教訓に昇華させようとするその一貫した姿勢は、やはり認められるべきだろう、と思う。


歴史は、現在から将来に及ぶ教訓の発見の場である、と私は考えている。
過去に起きた事柄を色んな角度から捉え直すことで見えて来る事象、現象、思想、政策、行動などを、今後の私たちの広い意味での生活の上に照らし合わせることで、漸く歴史は生かされるのだと思う。単に、昔はこういうことがあって、こういう風になって、こういうものが出来ましたよ、という客観的な出来事を知るだけでは、歴史を見つめる意味は無い。肝心なことは、過去におけるある出来事が、現在を生きる私たちに何をもたらそうとしているのかを考察することだ。


そういう意味では、保阪さんの歴史に対する態度は悪いと思わない。
ただし、時々、その態度が強烈なまでに指導者層への批判に向けられることがあるのは気になりますが…
そりゃちょっと厳しすぎないか、と思う見方をする時がある。それがこの人の評価を分けている第一の原因だろう。


過去への反省の念を持ち、その善悪を質そうとする姿勢は、やはり大切なことだ。しかし、それだけでは見えて来ないものもある。そこんところのバランスの取り方によって、歴史観というものは異なってくるのだろう。
保阪さんや半藤一利さんなんかは比較的厳しい目で過去を捉えようとしているけど、それは別の言い方をすれば、過去の日本の悪い部分と徹底的に向き合っているということ。そういう視点は忘れられるべきではない。


問題なのは、そのバランスなんですよ、バランス。
保阪さんはたまにバランスを崩すような時があるので、気をつけてもらいたいと思います。
繰り返して言いますけど、私は基本的にこの人のスタンスは嫌いではありません。この『昭和陸軍の研究』(上・下)も良い本ですよ。
この本の中のバランスは・・・たまに「むむっ!?」と思うときが無きにしもあらずという感じですが、当時の陸軍を徹底的に見つめ直しているという意味では、素晴らしい本だと実感しております。ハイ。

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